「世界で一番大きな犬は何か」という疑問に向き合う際、獣医学および愛犬団体の間では明確な定義の峻別が行われている。すなわち、地面から背中の肩甲骨頂点までの高さを測る「体高(Withers Height)」を基準とするか、肉体の質量を測る「体重(Body Weight)」を基準とするかという点である。
体高において世界の頂点に君臨し続けているのは、ドイツ原産のグレート・デーンと、アイルランド原産のアイリッシュ・ウルフハウンドだ。彼らは細身ながら極めて長い四肢と骨格を持ち、後足で立ち上がれば成人男性の身長を軽々と凌駕し、2メートルをゆうに超える。歴史的にオオカミやイノシシ狩りの追跡猟犬として改良されてきた背景から、走力と跳躍力を両立させたスラリとした巨躯が特徴となっている。
一方で、純粋な体重と筋骨の重厚さにおいて他を圧倒するのが、イギリス原産のイングリッシュ・マスチフやスイス原産のセント・バーナードである。これらは闘犬や軍用犬、あるいは山岳救助犬としての起源を持ち、極太の骨格と分厚い筋肉、強靭な胸郭を誇る。標準的な成犬オスであっても体重80kgから90kgに達し、個体によっては100kgの大台を軽々と突破する。このように、世界最大の座は「縦の規格外(グレート・デーン)」と「横の規格外(イングリッシュ・マスチフ)」という二大巨頭によって二分されている。