「病棟の申し送りノートにはCTRXと書かれているのに、感染症コンサルタントのカルテ記載にはCROとある」「調剤鑑査システムはCTRXしか認識しない」といった現場の混乱は、今も各地の医療機関で観察されます。看護師や若手薬剤師を対象にしたアンケートやヒアリング調査でも、「先輩医師によって略語が異なるため、別の薬剤かと身構えて調べ直した」という声が多数報告されています。
この二重基準が温存されてきた背景には、日本の臨床教育と電子カルテ導入期の構造的なギャップが存在します。2000年代以降、エビデンス・ベイスド・メディスン(EBM)の浸透に伴い、米国の感染症診療プラクティスを学んだ指導医層が「CRO」表記を臨床現場へ持ち込みました。一方で、病院情報システム(HIS)や電子カルテの処方マスタを構築するシステムベンダー側は、厚生労働省通知や日本化学療法学会の「4文字または3文字の公式マスターコード(CTRX)」を採用してシステムを組み上げました。
その結果、「入力画面ではCTRXを選択するが、医師同士のカルテ記事やカンファレンススライドにはCROとタイピングする」という奇妙な二重構造が固定化してしまったのです。医療安全の観点からは、略語の混用は指示の誤認やオーダリングの遅延を招く「潜在的ヒヤリハット因子」であり、現在では院内の略語規約(院内略語集)によってCTRXへ一本化する施設が増加しています。