「東京を走っていたはずなのに、FMラジオから突然九州のローカルニュースが割り込んできた」「ノイズ混じりに中国語や韓国語の放送が被さる」という怪現象の正体こそ、スポラディックE層によるVHF帯電波の異常伝搬です。
電波伝搬の物理的特性として、AMラジオなどに使われる中波(MF)や短波(HF)は、上空の電離層(地上約60〜500kmに広がるプラズマ領域)で反射され、地球の丸みに沿って遠くまで届きます。これに対して、FMラジオや防災無線、地上デジタル放送などで使われる超短波(VHF帯:30〜300MHz)は直進性が非常に高く、通常の電離層(D層・E層・F層)を突き抜けて宇宙空間へと抜けていくのが大原則です。このため、FMラジオの可聴範囲は送信アンテナの見通し距離である数十キロから、せいぜい100キロ程度に制限されています。
ところが、高度約100kmの「E領域」と呼ばれる空間に、通常の数倍から数十倍という異常な電子密度を持つ薄いシート状のプラズマ層が突発的(Sporadic)に出現することがあります。このスポラディックE層の電子密度が臨界値を超えると、突き抜けるはずのVHF帯電波がまるで巨大な鏡で反射されたかのように地上へ急角度で跳ね返されます。地上から打ち上げられた電波はEs層で反射し、1000km〜2000kmも離れた地点へと一気に届いてしまうのです。これが、遠方のFMラジオが突如として大音量で混信してくる物理的な仕組みです。