日本で親しまれてきた「ズボン」という言葉の成り立ちには諸説あるものの、言語学および服飾史研究において最も有力とされているのが、ズボン語源フランス語の由来説です。フランス語でかつて女性のペチコートや下履きを指した「ジュポン(jupon)」、あるいはスペイン語の胴着「ジュボン(jubón)」が幕末期に転訛して定着したと記録されています。
江戸幕府がフランス陸軍の軍制を採用し、幕府陸軍や洋式軍隊の軍服を導入した1860年代、軍事顧問団を通じて軍服の下衣を指す言葉として「ジュポン」が伝わったのが契機とされています。なお、民間では「足がずぼんと入るからズボンと名付けられた」という幕末の幕臣・大久保一翁による語呂合わせの俗説も広く知られていますが、これは言葉の定着期に後付けされた民間語源(フォーク・エティモロジー)と位置づけられています。
一方で、パンツの語源は16〜17世紀のイタリア即興喜劇(コメディア・デラルテ)に登場する好色な老商人「パンタローネ(Pantalone)」に遡ります。彼が穿いていた細身の長ズボンがフランスに渡って「パンタロン(pantalon)」となり、イギリスを経てアメリカに渡る過程で「パンタルーン(pantaloon)」、そして短縮形の「パンツ(pants)」へと変化しました。
日本でも1970年代に裾の広がったベルボトム型スラックスが「パンタロン」として大流行した記憶を持つ世代は多く、パンタロンとズボンの歴史的経緯を辿ると、ヨーロッパの舞台劇から枝分かれした同一系統の言葉が、時代ごとに異なるルートで日本へ上陸していた事実が浮き彫りになります。