米偏に花を配した「糀」の読み方は訓読みで「こうじ」です。漢和辞典を引くと驚くべき事実に直面します。この漢字には基本的に音読みが存在しません。一般的に「こう」と音のように読まれるケースもありますが、これは同義語である「麹(音読み:キク/慣用音:コウ)」の響きが便宜上当てられたものであり、正統な漢音・呉音としての音読みは持たないのが学術的な定説です。
その最大の理由は、「糀」が古代中国から海を渡って輸入された文字ではなく、平安時代から室町時代以降の中世日本において創出された日本固有の「国字(和製漢字)」だからです。中国の原典に存在しない文字であるため、中国から伝来した音読みそのものが存在しないという構造を持っています。
文字の構成要素と画数を確認すると、部首は「こめ・こめへん(米部)」で、総画数は13画(米:6画、花:7画)に分類されます。一部の旧字体体系や康熙字典の部首分類(草冠を4画とみなす数え方)では14画と算定される場面もありますが、現代日本の標準的な漢和辞典および公的公文書の基準では13画として扱われます。
何よりも人々を惹きつけてやまないのが、そのドラマチックな成り立ちです。蒸し上げた白米にコウジカビ(Aspergillus oryzae)を種付けし、湿度と温度が徹底管理された室(むろ)で寝かせると、わずか数十時間で菌糸が米粒の表面を覆い尽くします。その白くふわふわと立ち上がった菌糸の群生は、まるで純白の花が一面に咲き乱れたかのような神秘的な美しさを放ちます。職人たちが麹室の中で目撃したその感動的な情景を、そのまま象形的に文字へと落とし込んだのが「米偏に花=糀」という文字の誕生の原点です。