人間の歩行運動は、目から入る視覚情報、内耳の三半規管・耳石器が捉える傾きや加速度(前庭感覚)、足の裏や関節から伝わる深部感覚という3系統の情報が脳幹や小脳に集約され、精密に統合されることで成り立っています。この高度な情報ネットワークのどこか1カ所でも情報伝達に狂いが生じると、脳は自分の身体が空間のどこに位置しているのかを正しく把握できなくなり、まっすぐ歩けない原因となります。
単なる肉体疲労や自律神経の乱れによるふらつきであれば、末梢血管の緊張低下による一過性の低血圧(脳血流のわずかな低下)にとどまるため、少し横になって休息を取ることで速やかに回復へ向かいます。しかし、病的なふらつきは根本的にメカニズムが異なります。耳の奥深くにある内耳の炎症やリンパ液の過剰滞留、あるいは脳の血管が詰まる・破れるといった器質的障害が発生している場合、安静にしても症状は改善せず、歩行を試みると決まった方向に足が流れる現象が顕著に現れます。
特に片側に傾くふらつきが生じている局面では、空間認識や四肢の協調運動を統括する「小脳半球」や、左右の前庭神経の出力バランスが崩れている可能性を第一に疑わなければなりません。重力に対して垂直を保つ機能が物理的・神経学的に破綻している状態であり、気合いや休憩でごまかせる段階を完全に越えています。