子供の診断数増加以上に社会現象となっているのが、大人の発達障害が増加した真相です。社会人になって数年が経ち、20代後半から40代になって初めて精神科を訪れ、ADHDやASDの診断を受ける大人が引きも切りません。なぜ大人の発症・診断がこれほど増えているのでしょうか。
その背景には、現代社会の働き方と大人の生きづらさの深刻な構造変化があります。かつての日本的雇用慣行では、製造業を中心とした定型的な業務や、年功序列のピラミッド型組織が存在しました。多少注意力散漫であっても行動力があれば「営業の切り込み隊長」として重宝され、対人関係が極度に苦手であっても「黙々と正確な作業をこなす職人・専門職」として居場所が確保されていたのです。
しかし、IT化とサービス経済化が徹底された現代の職場は一変しました。現在のオフィスワーカーに要求されるのは、以下のような複合的かつ過酷なスキルです。
- 複数のチャットツールやメールを並行して捌く高度なマルチタスク管理
- 言葉の裏やニュアンスを瞬時に読み取り、合意形成を図る高度なコミュニケーション能力
- マニュアルが存在せず、臨機応変な即答を求められるアジャイルな業務推進力
- 常に整然としたスケジュールと進捗管理を自己責任で完遂するセルフマネジメント能力
30代前半で大手IT企業のマーケティング職から休職に追い込まれ、その後にADHDと診断されたある男性は、自著の手記やインタビューで自らの挫折を次のように告白しています。「大学まではペーパーテストの成績も良く、自由な時間割だったため何の問題もありませんでした。しかし会社に入り、プロジェクト管理、電話応対の割り込み、チャットの即レスを同時に求められた瞬間に脳が完全にショートした。『なぜ普通の人が当たり前にできることが自分にはできないのか』と毎晩泣きながら自分を責め続けました」。
SNSや知恵袋、オープンチャットなどでも、「仕事のミスが重なり死にたい」「上司の曖昧な指示が理解できずパニックになる」といった当事者たちの生々しい苦悩が毎日無数に書き込まれています。発達障害の社会的認知度向上と経緯がメディアを通じて広まったことで、「自分のこの異常な生きづらさは、努力不足ではなく脳の特性によるものではないか」と気付き、医療機関へ救いを求める大人が殺到しているのが実態です。