田部井さんの数々の偉業と過酷な闘病生活は、かけがえのない家族の存在なくして語ることはできません。夫の田部井政伸(まさのぶ)さんもまた著名な登山家であり、山岳会を通じて出会った2人は深い信頼で結ばれていました。
1975年のエベレスト挑戦時、長女の訓子(のりこ)さんはまだわずか3歳でした。「幼子を置いて山に行くのか」という世間からの激しい批判に対し、政伸さんは「好きなことをやっておいで」と全面的にバックアップし、留守中の家庭を守り抜きました。
長男の進也(しんや)さんが誕生してからも、家族は常に彼女の最大の理解者であり続けました。進也さんは後に母の遺志を継ぎ、山小屋の経営や東北支援活動の継続に携わっています。
2012年にがんが判明した際も、夫・政伸さんは献身的に看病にあたり、車椅子を押して各地の山や自然へ連れ出しました。最後の富士登山でも、一歩一歩苦しそうに進む彼女のすぐ隣でそっと寄り添い支え続けたのは政伸さんでした。家族の無償の愛と信頼があったからこそ、彼女は最期まで誇り高き登山家であり続けることができたのです。