「本当に自分が立つべきなのか」——出馬表明の直前まで、中川郁子氏の胸中には葛藤が渦巻いていた。夫・昭一氏の突然の死は、家庭の日常を一瞬で打ち砕いた。悲しみに暮れる暇もなく押し寄せる後援会からの強い要望。政治家の家系に嫁いだとはいえ、一人の私人であった女性が、いきなり永田町の濁流へ投げ込まれるリスクは計り知れなかった。
当時、政治・報道メディア産業のカメラは、彼女の衣服から目元の影、一言一句のトーンに至るまで徹底的に監視した。世論の同情と批判が背中合わせで迫る中、彼女を支えたのは「夫が残した未完の政策を無駄にはしない」という執念だった。衆議院の議席を争う選挙戦は、単なる票の奪い合いではなく、亡き夫の名誉と遺志を賭けた血の通う闘争だったのだ。