ナツメグが引き起こす激しい中枢神経症状の主犯は、種子に含まれる精油成分「ミリスチシン」と「エレミシン」です。これらの芳香族化合物は体内に吸収された後、肝臓の代謝酵素によってアンフェタミン誘導体(興奮剤や幻覚剤に似た構造物質)へと変換されると考えられています。
この代謝物が中枢神経系のセロトニン受容体や自律神経に干渉し、抗コリン作用に似た全身症状を誘発します。主な中毒症状は以下の通り多岐にわたります。
・初期段階(自律神経症状):激しい口の渇き、顔面の紅潮、吐き気・嘔吐、激しい動悸(頻脈)、胸の圧迫感
・進行段階(精神神経症状):めまい、時間感覚の消失、強い不安感や恐怖感、浮遊感、視覚・聴覚の幻覚、意識混濁
・重症化段階:全身痙攣、極度の低血圧、昏睡、呼吸抑制
もう一つの大きな落とし穴は作用時間の遅効性と持続性です。摂取直後には何の変化も起きず、食後1〜6時間が経過してから突然症状が悪化します。さらに体内での代謝と排泄に極めて長い時間を要するため、症状のピークが6〜8時間後に訪れ、脱力感やめまいなどの後遺症が24時間から最長48時間以上にわたって続く特徴を持っています。