ラテン語の「メメント・モリ」は、文法的には動詞「meminisse(心に留める・思い出す)」の命令形「memento」と、「mori(死ぬ)」という動名詞(または不定詞)が合わさった言葉だ。直訳すれば「自分が必ず死ぬ存在であることを忘れるな」という意味を持つ。
この言葉の由来は、古代ローマ帝国の過酷な軍事慣習にまで遡る。戦乱に勝利した将軍が首都ローマで「凱旋式」を挙行する際、市民からの割れんばかりの歓声を受け、月桂冠を被った将軍はまさに「神」として崇められた。しかし、その華々しい黄金の戦車には、将軍の背後に1人の公有奴隷(Servus Publicus)が同乗していた。
奴隷の任務は、熱狂の渦の中で将軍の耳元に何度もこう囁き続けることだった。
「Respice post te. Hominem te esse memento. Memento mori.(後ろを見よ。汝は神ではなく人間であることを想え。死を想え)」
極限の栄光に包まれた瞬間にあえて自らの死を意識させることで、権力者が傲慢に溺れて暴君化することを防ぐ。これこそが、メメント・モリという概念が人類史に刻まれた最初の瞬間である。