「これだけ車が通っているのに、なぜ誰も見ていないのか」「なぜカメラに映らないのか」という疑問は、事件を追う誰もが抱く違和感です。しかし、そこには京都の都市構造と人間の知覚特性が生み出す見落としの罠が存在します。
第一の盲点は、京都盆地の外縁部を走るバイパスや峠道特有の「勾配と側溝構造」です。現場周辺の道路は、雨水を逃すための深いU字溝や急斜面が歩道に隣接しており、わずか一歩踏み外しただけで車道のヘッドライト照射範囲(水平照射角約120度、上下照射角約15度)から完全に外れてしまいます。カメラには「何もない暗闇の道路」しか映っていなくても、路肩の草むらや法面の下部は完全にブラックボックス化しているのです。
第二の盲点は、ドライバーの「選択的注意」による見落としです。深夜の曲がりくねった道路を運転する際、人間の視野は前方の白線と対向車に集中します。仮に歩道側に歩行者がいたとしても、認知心理学でいう「不注意視覚症」により、網膜には光が入っていても脳が対象を歩行者として認識しない現象が起きます。そのため、後から「何か白いものが視界の端に入った気がする」と証言しても、それが記憶の再構成なのか実際の目撃なのかを立証することは極めて困難です。