一見すると本作は、勉強も運動も苦手な落ちこぼれの孤児・花園花鈴が、謎めいた美少年・九条和音と出会い、神様の指輪の力で「かみちゃま」へと変身して悪と戦う、王道のファンタジー・ラブコメディに見えます。しかし、物語が中盤から終盤へと進むにつれ、その甘やかな世界観は音を立てて崩壊していきました。読者がかみちゃまかりんの鬱展開の理由として真っ先に挙げるのは、少女漫画の定型を完全に破壊する「重層的なアイデンティティの喪失」です。
両親を亡くし、唯一の心の拠り所だった愛猫「しーちゃん」の死から始まるオープニングの孤独感もさることながら、物語の根底を貫くのはバイオテクノロジーと神格化実験の狂気でした。原作者であるコゲどんぼ先生といえば、『デ・ジ・キャラット』などのポップな美少女イラストで一世を風靡した一方で、『ぴたテン』で見せた容赦のない死生観や悲恋描写など、コゲどんぼ作品特有の鬱や影の表現に定評があります。本作『かみちゃまかりん』においても、無邪気で華やかなキャラクターデザインの真裏に、逃れられない運命と倫理的苦痛が周到に配置されていました。
連載当時の子どもたちは、毎週・毎月のように開示される重苦しい事実に息を呑み、「毎週なかよしを読むのが怖かった」「可愛い絵柄に騙されて読んだら夜眠れなくなった」という告白が後を絶ちませんでした。まさに、児童向けファンシー作品の皮を被った純然たるハードSFサイコサスペンスであったことが、鬱と評される最大の要因です。