権利を巡る議論で最も誤解されがちなのが、「人権は絶対であり、いかなる制限も受けない」という思い込みです。憲法第12条および第13条には、人権の行使が「公共の福祉に反しない限り」認められる旨が明記されています。
法学・判例における「公共の福祉」とは、単なる「国家の都合」や「多数派の利益」ではありません。その本質は「他者の人権との衝突を公平に調整するための実質的公平の原理」です。例えば、自己の表現の自由を行使して他人の名誉を著しく毀損したりプライバシーを侵害したりすることは許されません。また、営業の自由があるからといって、公衆衛生を脅かす有害物質を無許可で販売することは禁じられます。
最高裁判所の判例実務では、精神的自由を制約する規制に対しては「厳格な基準(明白かつ現在の危険など)」で違憲性を審査する一方、経済的自由の制約(社会保障や公衆衛生目的)に対しては「立法府の裁量を尊重する緩やかな基準」を採用する二重の基準論(ダブル・スタンダード論)が定着しています。人権の種類によって、制限の許容範囲が厳密に区別されているのです。