『素敵なあの人』が創刊された背景には、出版市場における決定的な「エアポケット」の存在がありました。かつて50代向けの『éclat(エクラ)』や『STORY(ストーリィ)』を購読していた層が60代を迎えた際、次に手に取るべき選択肢が市場にほとんど存在しなかったのです。従来のシニア誌は介護や終活、孫へのプレゼント、あるいは健康不安を煽る構成が多く、「おしゃれをして街に出かけたい」「自分の人生を豊かに楽しみたい」と願うアクティブな女性たちの受け皿にはなり得ていませんでした。
この空白地帯に着目した宝島社は、2017年のムック本発行を経て月刊化を決断。読者層を単なる「高齢者」ではなく、自立したライフスタイルを築いてきた大人の女性「グラン世代」と再定義しました。誌面に並ぶのは、無理して若作りをするためのアイテムではなく、体型の変化を優しく包み込みながら品よく見せる60代ファッションの数々です。締め付けのないウエストゴムのパンツや、歩きやすさと美しさを両立させたフラットシューズなど、生活者の目線に徹底的に寄り添った提案が爆発的な共感を呼んでいます。
さらに、本誌の精神的支柱となっているのが、創刊以来カバーを務める結城アンナさんの存在です。彼女が体現する「ありのままのグレイヘア」と、肩肘を張らないシンプルな暮らしぶりは、エイジングを恐れるのではなく愛おしむという新しい価値観を読者に提示しました。公のインタビューや手記で彼女が語ってきた「年を重ねることは、自分を解放していくこと」という哲学は、家庭や職場で責任を果たし終え、ようやく自分の時間を取り戻した女性たちにとって、救いにも似た指針となっています。