蟻鱒鳶ルを語る上で欠かせないのが、施工者であり設計者でもある岡啓輔氏の身体性と建築思想です。1965年福岡県生まれの岡氏は、建築を学ぶ傍らで舞踏家としても活動した経歴を持ちます。図面上の記号や効率主義に支配された現代の建設プロセスに疑問を抱き、「人間が自らの筋肉と呼吸を使ってどこまで建築を立ち上げられるか」という極限の問いを投げかけてきました。
その思想が結晶化した技術が、俗に「200年コンクリート」と呼ばれる独自の高密度コンクリート打設です。
通常の近代建築工事では、作業効率と流動性を高めるために水分量を増やした生コンクリートをミキサー車で搬入し、ポンプで一気に流し込みます。しかし、水分が多いコンクリートは乾燥収縮時に微細なひび割れ(クラック)を生み、そこから雨水や空気が侵入して内部の鉄筋を腐食させ、寿命を50〜60年程度に縮めてしまいます。
岡氏は砂利、砂、セメント、そして極限まで減らした水を自ら手作業で配合して練り上げ、木槌で型枠を叩きながら隙間なく締め固める作業を繰り返しました。この手練り作業によって生まれたコンクリートは、空隙が極めて少なく、圧縮強度が驚異的に高くなります。曳家工事の際、構造診断を行った専門エンジニアたちが「クラックが一切入らず、現代の大手ゼネコンが打つ標準コンクリートを遥かに凌駕する強度を保っている」と舌を巻いたというエピソードは、この建物の本質を雄弁に物語っています。