今やトップ声優の一角として揺るぎない地位を築いた彼女ですが、ここに至る道のりは決して平坦なエリートコースではありませんでした。ファンの間で語り継がれる魅力の根底には、泥臭い下積み時代を支えたハングリー精神が存在します。
愛知県出身の鬼頭明里は、もともと美術やイラストへの関心が高く、進路の選択肢には絵の道もありました。しかし「声でキャラクターに命を吹き込みたい」という情熱を捨てきれず、声優への挑戦を決意します。親からの経済的自立を果たすため、地元のラーメン店などでアルバイトに明け暮れ、自力で上京資金を捻出。プロ・フィット声優養成所に入所した際も、特待生として学費免除を勝ち取るほどの集中力を見せていました。
当時の様子を知る音響制作関係者は、次のように振り返ります。
「新人の頃からスタジオの隅で台本が擦り切れるほど読み込んでいました。声質の美しさに頼らず、マイク前での立ち回りや共演者のブレスに呼吸を合わせる技術を愚直に学んでいた姿が印象的です」
『鬼滅の刃』のオーディション時にも、そのストイックな姿勢が発揮されました。台詞が「うーん」や「唸り」しかない禰豆子役の選考において、多くの候補者が可愛らしさを意識した発声をするなか、彼女は「鬼と化して家族を失った絶望」「人間としての理性を取り戻そうと葛藤する内なる苦しみ」をリアルな獣の呼吸音として提示。その鬼気迫る表現が、制作陣を満場一致で唸らせたというエピソードは、ファンの間でも伝説的な事実として認知されています。