自邸で木造モダニズムの極致に達した前川國男は、戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、日本の公共建築の礎を築く数々のモニュメントを手掛けました。自邸に見られる設計思想が、のちの代表作にどのように受け継がれていったのかを概観します。
前川國男の建築代表作として筆頭に挙げられるのが、上野公園内に位置する東京文化会館(1961年)です。師ル・コルビュジエが設計した国立西洋美術館の向かいに建てられたこのホールは、大庇の力強い水平ラインと彫刻的なコンクリート表現が特徴で、自邸で見られた「深い軒と内部の大空間」が巨大スケールへ昇華されています。
また、横浜の紅葉ヶ丘に建つ神奈川県立図書館・音楽堂(1954年)では、中空レンガ(ホローブリック)を用いたファサードにより、日差しを遮りながら木漏れ日のような柔らかい光を館内に導いており、自邸の南面格子窓が持っていた採光機能の進化系を見ることができます。さらに、熊本県立美術館や東京都美術館などで見られる「打ち込みタイル工法」など、日本の過酷な気候から建物を守り、美しく経年変化させる技術への探求は、すべてあの1942年の木造自邸からスタートしていました。