糖尿病をめぐる最大の社会的誤解は、「糖尿病は不摂生な生活を送った人が自業自得でかかる病気だ」という偏見である。このステレオタイプによって、とりわけ深い精神的苦痛を強いられているのが「1型糖尿病」の患者たちである。
糖尿病には大きく分けて「1型」と「2型」が存在する。成人の大多数を占める2型糖尿病は、過食、運動不足、ストレス、加齢といった生活習慣因子に遺伝的素因が重なって発症する。これに対し、1型糖尿病は生活習慣とは一切関係がない。何らかの原因で自己の免疫システムが暴走し、膵臓の中でインスリンを作り出す「ランゲルハンス島β細胞」を破壊してしまう自己免疫疾患である。子どもや10代〜20代の若年層で突発的に発症することが多く、体内でインスリンが全く作られなくなるため、生存には生涯にわたる毎日のインスリン自己注射(またはインスリンポンプ投与)が不可欠となる。
元阪神タイガースの投手・岩田稔は、高校2年の冬に1型糖尿病を発症した。甲子園を目指す最中の宣告に絶望しながらも、1日4回の血糖値測定とインスリン注射を続け、名門・関西大学を経てドラフト希望枠で阪神に入団。プロ野球の第一線でローテーションを守り抜き、通算60勝を挙げる大活躍を見せた。岩田は登板中もベンチ裏で血糖値をチェックし、低血糖発作を防ぐためにブドウ糖を補給しながらマウンドに立ち続けた。同じくプロゴルファーの杉山知靖も1型糖尿病を公表し、激しいツアートーナメントの現場で戦い続けている。
彼らが病名を公表して戦う背景には、「1型糖尿病患者が不当な偏見に晒される社会を変えたい」「子どもたちに夢を諦めないでほしい」という強い使命感がある。不摂生の結果と混同されがちな病気の正しい知識を啓発することは、表現者たちが果たす極めて重要な役割となっている。