「たかがベルトの向きひとつで、そこまで見られているものなのか」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、ビジネスウェアの第一線に立つ現場からは、驚くほど厳しいリアルな証言が聞こえてきます。
都内大手百貨店のフォーマルウェア売り場で20年以上の接客経験を持つベテランテーラーは、取材に対して次のように現場の実態を語っています。
「新社会人やオーダースーツを初めて仕立てに来られるお客様を見ていると、およそ3割近くの方が無意識に逆巻き(男性で反時計回り)にベルトを通しています。ご本人は全く意図しておらず、『右利きだから右手で引っ張りやすいように右から通していた』『親から教わったことがなく気にしたこともなかった』というケースが大半です。しかし、クラシックなスーツスタイルを熟知している役員クラスや採用面接官、あるいは海外ビジネスの場では、フロントの合わせが乱れているだけで『細部に無頓着な人物』という無言のレッテルを貼られかねません」
SNSや知恵袋などのコミュニティ上でも、「新入社員のベルトが女性巻きになっていて注意すべきか迷った」「商談相手のベルトが逆で、ブランドロゴが上下逆さまになっていて商談中ずっと気になってしまった」といった書き込みが後を絶ちません。人間は無意識のうちに「左右対称性」や「整合性」を美しさの基準として捉えるため、正しい向きから外れている状態に対して、言葉には出さずとも強烈な居心地の悪さを察知してしまうのです。