東映東京撮影所で行われていた『はぐれ刑事純情派』の現場において、藤田まことさんの存在は絶対的な大黒柱でありながら、共演者にとっては温かな太陽のような存在でした。当時の制作スタッフやキャストの回想録、過去の特別番組インタビューによると、藤田さんはスタジオに入ると自然と「やっさん」の顔になり、若い娘役の二人を常に気にかけていたと伝えられています。
特に松岡由美に対しては、若手女優としての立ち居振る舞いや言葉遣い、現場スタッフへの感謝の示し方など、芸能界を生き抜くための礼儀作法を身をもって教え込みました。怒鳴るような指導ではなく、「エリ、そこはもう少し間を取ったほうが台詞が生きてくるで」といった関西弁の柔らかな口調で、役者としての核を育んでいったといいます。
また、有名なエピソードとして知られるのが「食卓シーンの裏側」です。安浦家の象徴であった朝食や夕食の場面では、用意された料理を藤田さんが本当においしそうに平らげ、カメラが止まった合間にも「これ旨いな、由美ちゃんも食べや」と声をかけ、和気あいあいとした空気を主導していました。松岡由美自身も後年のインタビューで、「藤田さんは私にとって芸能界における本当のお父さんでした。現場でいただいた言葉の一つひとつが、今も役者としての背骨になっています」と深い感謝を語っています。