日本人は古来より、月そのものの運行に細やかな感情を投影し、日ごとの満ち欠けに対して驚くほど多彩な名前を与えてきました。満月(十五夜)の翌日以降、月が昇る時刻が毎日約50分ずつ遅れていく様子を「待ち遠しがる人の姿」に見立てた表現は、日本語の真骨頂です。
代表的な満ち欠けの呼称とその情緒あふれる意味を紹介します。
- 新月(しんげつ / 朔・さく):月と太陽が同じ方向にあり、地球から姿が見えない状態。旧暦では「一日(ついたち=月立ち)」の始まり。
- 三日月(みかづき / 眉月):新月から3日目の細い月。物事の始まりの象徴として武将の兜の前立てなどにも重用された。
- 上弦の月(じょうげんのつき):新月と満月の中間で、右半分が輝く半月。弓を張った形に似ていることから命名。
- 十三夜(じゅうさんや):満月の2日前の月。十五夜に次いで美しいとされ、日本では古くから月見の風習がある。
- 十五夜(じゅうごや / 望月・もちづき):満月。完全無欠の美しさを誇る。
- 十六夜(いざよい):満月の翌日の月。「いざよう」は「ためらう・進まない」を意味し、十五夜より月の出が遅れるため「月が躊躇(ためら)いながら出てくる」様子を表す。
- 立待月(たちまちづき / 17日目):「まだかまだか」と立って待っているうちに昇ってくる月。
- 居待月(いまちづき / 18日目):立って待つには遅すぎるため、座って(居て)待つうちに昇ってくる月。
- 寝待月(ねまちづき / 19日目):座って待つのも疲れて、横になって寝て待つうちに昇る月。「臥待月(ふしまちづき)」とも呼ぶ。
- 更待月(ふけまちづき / 20日目):夜が更けて(21〜22時頃)ようやく姿を現す月。
- 下弦の月(かげんのつき):満月から新月へ向かう途中で、左半分が輝く半月。真夜中に昇り昼間に沈む。
- 有明月(ありあけづき):夜が明けて空が白浮きしてもなお、空に残っている細い月。
「十六夜」から「寝待月」へと移り変わる名付けのグラデーションには、ただ空を眺めるだけでなく、月の出を待つ時間の経過すらも風流として楽しんだ先人たちの豊かな感性が息づいています。