「妊娠したのだから、鉄分をしっかり補給しなければならない」「スタミナをつけて悪阻(つわり)を乗り越えよう」――こうした母心や家族の善意が、皮肉にも胎児を危険に晒してしまう構造が存在します。その代表例が、動物性ビタミンA(レチノール)の過剰摂取です。
妊娠3カ月以内(妊娠初期)におけるビタミンA過剰摂取と胎児奇形リスクは、疫学調査によって科学的に立証されています。厚生労働省の「食事摂取基準」において、妊婦のビタミンA耐容上限量は1日あたり2,700µgRAEと設定されていますが、鶏レバー串1本(約30〜40g)には約4,000〜5,000µgRAEものレチノールが含まれており、たった1本口にしただけで1日の上限値を軽々と突破してしまいます。
そのため、うなぎやレバーを食べる時の注意点は明確です。レバーは貧血予防の優等生と喧伝されがちですが、妊娠初期は摂取を控えるか、食べる場合でも数週間に1口程度(スプーン1杯未満)に抑えるのが鉄則です。うなぎの蒲焼きも1串で約1,500µgRAE前後のビタミンAを含むため、頻繁に食卓へ並べるのは避けるべきです。なお、緑黄色野菜に含まれる「ベータカロテン」は、体内で必要な分だけビタミンAに変換される安全なプロビタミンであるため、人参やかぼちゃを制限する必要はありません。
もう一つの盲点が「ヒジキ」と「ハーブティー」です。乾燥ヒジキには発がん性や催奇形性が懸念される無機ヒ素が高濃度で含まれており、食品安全委員会は継続的な大量摂取を控えるよう勧告を出しています。また、健康志向の妊婦がコーヒーの代替として選ぶハーブティーの中にも、子宮収縮作用やホルモン様作用を持つカモミール、セージ、ジャスミン、甘草(リコリス)などがブレンドされている製品が散見されます。「オーガニック」「無添加」という心地よい響きに惑わされず、原材料表示の隅々まで確認する冷徹な視点が必要です。