厳冬の飛騨高山に実在する築100年の古民家。氷点下の静けさの中で行われた撮影現場について、是枝裕和監督は語り始めた。「台本に書かれた言葉を削ぎ落とし、余白に漂う感情をどうカメラに収めるか。主演の役所広司さんとは、現場で生まれる一瞬の空気感を呼吸するように共有しながらカメラを回し続けた」と振り返る。
主演の役所広司もまた、この極限状態での撮影がもたらした心理的効果を認める。「本物の木造建築が放つ特有の匂いや冷気が、そのまま役柄の抱える過去の孤独と重なり合っていった。言葉を交わさずとも、是枝監督の視線がどこを向いているのかが指先まで伝わってくる感覚があった」と、現場の密度の濃さを明かしてくれた。