「人間と同じようにワクチンを打って予防できないのか」という疑問は常に上がる。しかし、養鶏産業においてワクチンの全頭接種を行わない理由には、極めて合理的な3つの壁が存在する。
第一に、現在の鳥インフルエンザワクチンは「発症や死亡を抑える」ものであり、「感染そのものを完全に防ぐ」わけではない点だ。ワクチンを打った鳥が感染した場合、外見は健康なままでウイルスを排泄し続ける「ステルス感染(隠れた感染源)」を引き起こす。人間が気づかないうちに、ウイルスが静かに周辺環境へ拡散していく恐怖のリスクが生じる。
第二に、輸出貿易への壊滅的打撃だ。国際基準では、ワクチンを接種すると「自然感染した鳥」と「抗体を持つ健康な鳥」の判別が困難になる。結果として日本は「清浄国」のステータスを失い、鶏肉や卵の海外輸出が全面的に停止する。第三に、世界中を移動する渡り鳥が持ち込むウイルスは絶えず変異しているため、既存のワクチンが突然効かなくなるリスクを常にはらんでいることだ。