昭和から平成にかけて、宮城県を代表する名物土産として一世を風靡した仙台銘菓「タイムズスクエア」。ふんわりと焼き上げられた黄色いスポンジケーキの中に、なめらかなカスタードクリームと香り高いバナナクリーム(またはチョコレートクリーム)が二層仕立てで包み込まれたその味は、銘菓「萩の月」の姉妹品として子どもから大人まで幅広い層を魅了しました。しかし、ある時期を境に駅の売店や空港から忽然と姿を消し、現在では「幻の銘菓」として語り継がれる存在となっています。
関係者への取材や過去の公式資料を紐解くと、仙台タイムズスクエア販売終了の理由には、単なる売れ行きの問題にとどまらないメーカー側の構造的な決断が存在していました。製造元である株式会社菓匠三全は、2000年代以降、看板商品である「萩の月」の品質向上と安定供給に注力する一方で、工場の生産ラインの再編を推し進めました。生菓子に近い繊細な日持ち設定と、バナナペーストを用いた特殊なクリーム充填工程は製造ラインの自動化・効率化において高度な維持管理コストを要していたのです。
さらに、消費者の嗜好が多様化するなかで、ブランドアイデンティティを「宮城・仙台の伝統と格式」へ回帰させる戦略的転換が図られました。ハイカラなニューヨークの摩天楼を想起させる「タイムズスクエア」という洋風のネーミングは、発売当時の平成初期には斬新だったものの、地域資源の物語性を重視する現代の贈答文化においては、ポジショニングの再構築を迫られる要因となりました。菓匠三全公式発表と現在のラインナップを照合すると、現在は「萩の月」「ロワイヤルテラッセ」、そして東京駅を中心に爆発的ヒットを記録した「萩の調 煌(はぎのしらべ こう)」などが主力として確立されており、かつてのタイムズスクエアは正式にカタログから姿を消しています。