民間企業の効率性を取り入れる水道民営化ですが、世界の先行事例を見ると数多くの深刻な爪痕が残されています。その代表格が、イギリスのテムズウォーター(Thames Water)をめぐる経営危機です。
サッチャー政権下の完全民営化以降、同社は巨額の負債を抱えながらも株主への配当を優先し、老朽化した配水管の改修投資を怠り続けました。その結果、頻繁な漏水事故や未処理下水の河川放流が深刻化。最終的には150億ポンド(約3兆円規模)もの莫大な負債を抱えて事実上の経営破綻状態に陥り、英国政府による特別管理(再国営化)の議論にまで発展しました。
さらに、かつて民営化を推進したパリ市やベルリン市、南米ボリビアのコチャバンバなどでも、過度な料金高騰や水質悪化が市民の反発を招き、自治体が運営権を買い戻す「再公営化(再公営戻し)」の動きが相次ぎました。「民間企業は利益を追求するあまり、長期的な設備投資を軽視するのではないか」という懸念は、これらの失敗事例が根拠となっています。