平日ランチの看板を見て「これほど安くて店は潰れないのか」と疑問を抱く人は少なくありません。しかし、店舗経営の観点から見れば、平日昼のディスカウントは極めて合理的な防衛策であり、利益創出のエンジンです。外食業界の関係者が口を揃える最大の要因は、「固定費の分散」と「席回転率の圧倒的な差」にあります。
飲食店を運営する上で、テナント賃料や正社員の人件費、厨房設備の減価償却費は、客が入ろうが入るまいが24時間365日均等に発生します。休日にどれだけ客が詰めかけても、平日昼に客席が空いていれば、その時間は純粋な赤字を垂れ流すことになります。たとえ利益率をギリギリまで削ったとしても、平日昼に店を開けて客を呼び込み、わずかでも粗利を稼いで固定費を相殺するほうが、店を遊ばせておくよりもはるかに財務健全性を保てるのです。
さらに決定的なのが滞在時間です。休日のランチは家族連れや友人と会話を楽しみながら過ごすため、平均滞在時間は70分〜90分に及びます。一方、オフィスワーカーが押し寄せる平日のランチタイムは、注文から完食・退店までわずか25分〜35分。つまり、同じ1卓から1時間あたり休日の2倍以上の回転数が生まれます。1人あたりの単価が休日の6割に落ちたとしても、席あたりの売上(RevPASH:利用可能席時間あたり収益)は平日の方が高くなる計算が成り立ちます。
また、多くの飲食店を支える平日ランチご飯おかわり無料サービスの裏側にも、緻密な原価コントロールが存在します。炊飯米1杯(約150g)の仕入れ原価は、近年の米価変動を考慮しても約25〜35円程度にとどまります。肉や魚などの主菜(原価率40〜50%)を増量すれば一気に原価を圧迫しますが、安価な炭水化物でお腹を満たしてもらえれば、メインおかずのボリュームをコンパクトに抑えつつ、利用客に「満腹で得をした」という強い心理的満足感を与えられます。安さの裏には、緻密に計算された原価配分の方程式が組み込まれています。