新聞社やテレビ局などで構成されるマスメディア業界において、実名報道は社会の知る権利に応え、犯罪の抑止や再発防止を果たす重要な役割を担ってきた。特に事件発生直後の刑事事件報道は、社会的な関心が高く、速報性が最優先される。問題は、その速報記事がデジタル空間に半永久的に保管され続ける点にある。
かつて紙面やテレビ放送にとどまっていた時代は、時間の経過とともに報道の記憶も風化していた。だが、インターネットの普及により、過去の出来事が一瞬で引き出せる構造へと変化した。このテーマはメディア内部でも深刻に議論されており、過去に放送されたNHKスペシャルの検証番組でも、実名報道のデジタルアーカイブが個人の更生や社会復帰に及ぼす影響が大きな問題意識として取り上げられた。
微罪処分や不起訴、あるいは裁判で無罪が確定したケースであっても、最初に流れた「逮捕速報」のタイトルだけが検索結果のトップに残り続ける例は後を絶たない。一度拡散された実名情報は、報道機関が記事を削除した後も、まとめサイトや個人のブログに転載され、消えない「デジタルタトゥー」として当事者を苦しめ続ける。