ネット上の掲示板やSNSでは、「固定残業代制度だから残業代はいくら働いても定額」「みなし残業がある会社は違法労働させ放題」といった誤った言説が散見されます。しかし、労働法制における固定残業代(みなし残業手当)の運用ルールは極めて厳格であり、企業の都合の良い解釈は通用しません。
代表的な誤解と、法的に見た実態は次の通りです。
固定残業代の超過分は1分単位で精算支払いが義務付けられている
「定額働かせ放題」という認識は完全な間違いです。例えば、雇用契約書に「月30時間分の固定残業手当として5万円を支給する」と記載されている場合、月間の実残業時間が35時間になった際には、超過した5時間分の割増賃金を別途支払うことが法律上の義務です。この固定残業代の超過分を支払わない行為は、労働基準法第37条違反(割増賃金未払い)に該当します。
基本給と固定残業代の区分が曖昧な契約は無効となる
過去の最高裁判所判例(テックジャパン事件、日本ケミカル事件など)においても、基本給と固定残業代が明確に区分されていない契約は「固定残業代の合意自体が無効」と判断されています。給与明細に「基本給30万円(残業代を含む)」としか記載がなく、何時間分の時間外労働に対する対価なのかが特定できない場合、固定残業代としての効力は認められず、30万円全額を基礎賃金として過去の残業代全額の再計算と請求が可能になります。
固定残業時間を除いた基本給が「最低賃金」を下回る脱法手口
悪質なブラック企業に見られる手口が、給与総額を高く見せかけつつ、内訳で法外な固定残業時間を設定する手法です。例えば「総支給額22万円・固定残業80時間分(10万円)を含む」という契約の場合、純粋な基本給は12万円にすぎません。これを所定労働時間(月160時間など)で割ると時給750円となり、各都道府県が定める地域別最低賃金を大幅に下回る違法状態(みなし残業の違法性)が発生します。