人間は極限の恐怖に直面したとき、合理的とされる判断を常に下せるわけではない。麻央さんが乳房のしこりを最初に自覚し、受診した段階から、実際に抗がん剤治療や手術といった標準治療へ本格的に踏み出すまでには、約1年8ヶ月もの空白期間が存在したと報じられている。なぜ、これほど重要な時期に標準治療が遅れることになったのか。
真相の背景には、診断初期における見落としのリスクと、確定診断を受けた際の患者側の心理的ショックが重なった複雑な経緯がある。切除手術に対する恐怖や、授乳中の母親としての葛藤、そして体にメスを入れずに治したいという極めて人間的な願望が、標準医療への着手を躊躇させた。がん治療における数ヶ月の遅延は病期の進行に直結する。だが、当事者にとって「命を守るための治療」と「身体の損傷」の間で揺れる葛藤は、第三者が外側から評価するほど単純なものではなかった。