スタジオジブリ作品の舞台設定をめぐっては、世界各地でさまざまな憶測や都市伝説が語り継がれています。その中でも『千と千尋の神隠し』のメイン舞台である油屋に関しては、スタジオジブリ自身が公式サイトの「いつものジブリ」(Q&Aコーナー)や公式パンフレット、関連書籍において明確な見解を示しています。
公式発表資料およびスタジオジブリの発行図書『The Art of Spirited Away』などの記述を総合すると、油屋の設計にあたって制作陣が「大いに参考にした場所」として筆頭に挙げられているのが愛媛県松山市の道後温泉本館です。宮崎駿監督は制作当時の記者会見や特番インタビューにおいて、「色々な温泉が入っていて特定のモデルはないが、道後温泉本館は確かに入っている」といった趣旨の証言を残しています。
つまり、「道後温泉だけが唯一のモデル」とする主張は誤りであるものの、「道後温泉本館が油屋の主要な外観・構造のイメージソースである」という解釈は、公式の裏付けを持つ紛れもない事実です。宮崎監督が幼少期から親しんできた江戸東京たてもの園の「子宝湯」をはじめとする下町の銭湯文化、そして社員旅行などで訪れた歴史的温泉地の記憶が、道後温泉本館という明治建築の傑作をフレームにして一つの巨大な建造物へと結実しました。