本作の撮影現場となったのは、原作者・阿久悠の故郷である兵庫県淡路島です。美しい海と緑に囲まれた自然の中で、約2カ月にわたる大規模なオールロケが敢行されました。報道各社の過去の取材記事や制作スタッフの回顧録によると、夏の過酷な日差しが降り注ぐ現場で、夏目雅子が見せた立ち振る舞いはスタッフや島民の心を完全に掴んでいたといいます。
当時、すでに『鬼龍院花子の生涯』で大スターの座に君臨していた夏目雅子ですが、淡路島の現場では一切の特別扱いを拒みました。子役たちを集めて率先して泥だらけになりながら野球のノックを受け、休憩時間には子どもたちと手を繋いで海辺を散歩し、地元の差し入れのスイカを屈託なく頬張る姿が目撃されています。竜太役を演じた山内圭哉は、後年の回想番組で「夏目さんは大女優という壁をまったく作らず、僕たちにとって本当に『駒子先生そのもの』だった。怒る時も本気、笑う時も本気で、みんな本気で夏目さんに恋をしていた」と語っています。
また、篠田正浩監督は当時のインタビューで、夏目雅子の演技に対するストイックな姿勢について「彼女はカメラの前に立つと、直前までの無邪気さが嘘のように、昭和20年という時代の痛みをすべて背負った凛とした表情に変わる。天性の華やかさの中に、どこか壊れそうな透明感を宿していた」と述懐しています。泥にまみれながら白い体操着姿でベースに滑り込むシーンでは、膝に擦り傷を作りながらも「もう一回お願いします」と監督に志願したという現場の逸話は、彼女の役者魂を物語る象徴的なエピソードです。