「従来のネイチャードキュメンタリーの文法をすべて疑うことから始めた」――メガホンをとった監督は、本誌の独占取材に対してこう切り出した。従来の野生動物を追うスタイルや、ドラマチックなナレーションで感情を誘導する手法を完全に排除。徹底して「森の主観」にカメラを据えた理由について、監督は熱を込めて語る。
「人間が森を観察するのではなく、森が人間を観察しているような視点を作りたかった。カメラの存在すら消し去りたかったのです。屋久島や白神山地の奥地で、クルー全員が何日間も身を潜め、自然が人間を警戒しなくなる瞬間を待ち続けました」
スタッフが直面したのは、過酷な自然環境だけではない。機材の限界、天候の急変、そして何より「何も起きない時間」との戦いだった。しかし、その気の遠くなるような忍耐が生んだ数分間の映像には、作為的なCGでは決して生み出せない神聖なリアリティが宿っている。