日々の胸腔ドレナージ観察項目の中で最も注意を払うべき局面が、呼吸性変動の消失です。水封室の水柱がピタリと動かなくなった場合、そこには「患者が良い状態に向かっているサイン」と「直ちに対処が必要なトラブル」という正反対の2つの決定的な理由が存在します。
第一の理由は、病態の改善による肺の完全再膨張です。気胸による虚脱肺や胸水貯留によって生じていた胸腔内のスペースが、適切なドレナージによって消失し、膨らんだ肺実質がドレーンチューブの側孔(サイドホール)を自然に覆うことで、胸腔内圧の変動が水封室へ伝わらなくなります。胸部X線で肺が完全に広がっており、患者に呼吸困難感がなく、エアリークもない状態であれば、これはドレーン抜去に向けた極めて順調なステップと判断できます。
第二の理由は、ドレーンチューブの閉塞や屈曲といった物理的トラブルです。術後出血のフィブリン塊や粘稠な排液による内腔の詰まり、患者の体位変換に伴うチューブの折れ曲がり(キンク)、あるいは側孔が皮下組織や筋肉内に迷入・逸脱してしまった場合、圧の変化が遮断されて水柱の動きが止まります。この場合、胸腔内に空気や液体が急速に再貯留し、最悪の場合は緊張性気胸へ進展する恐れがあるため、迅速なトラブルシューティングが求められます。