考古学ファンのみならず一般の歴史愛好家にとっても、三角縁神獣鏡の特徴と見分け方を把握することは、この論争の核心を理解する近道となります。青銅鏡には方格規矩鏡(ほうかくきくきょう)や内行花文鏡(ないこうかもんきょう)、画文帯神獣鏡など多種多様な形式が存在しますが、三角縁神獣鏡は極めて特異な造形ルールを持っています。
最大の特徴は、その名称の由来となった外縁部の断面形状です。鏡の外周縁が鋭角的な三角形に盛り上がっており、これによって鏡自体の強度を高めるとともに、光を反射した際に独特の重厚感を演出します。鏡背の中央には紐を通す半球形の「鈕(ちゅう)」が配され、その周囲の内区には神仙思想を反映した東王父(とうおうふ)・西王母(せいおうぼ)などの神人像と、青龍・白虎・玄武・朱雀などの霊獣が躍動感あふれる浮き彫りで交互に配置されています。
さらに注目すべきは、周縁部に刻まれた銘文です。中国鏡の銘文は四字一句の端正な押韻詩句で構成されるのが通常ですが、日本国内から見つかる三角縁神獣鏡の一部には、文字の反転や誤字、語順の混乱が見られます。この「銘文の破綻」こそが、国産説(仿製鏡説)を唱える研究者たちが「中国の古典教養を持たない列島の工人が見よう見まねで彫り込んだ証拠」として指摘する決定打となっています。