手伝いが必要な場面であれば、番犬や猟犬として人間の作業を献身的に支えてきた「犬」のほうが適任に思えるかもしれません。しかし、この言葉であえて「猫」が選ばれた背景には、江戸時代の生活様式と動物に対する認識が大きく関係しています。
江戸時代の農村や商工業の現場において、犬は荷物運びや狩猟の手伝い、番犬として実質的な労働力になっていました。一方の猫は、穀物や蚕を食い荒らすネズミを捕獲する役割こそあったものの、人間の指示通りに働くことはなく、気ままに寝て過ごすのが日常でした。そのため、当時の人々にとって猫は「普段の作業ではまったく役に立たない存在」の象徴だったのです。
江戸時代後期の戯作者・十返舎一九が著した滑稽本『東海道中膝栗毛』や、当時の川柳などにも猫をモチーフにした表現が数多く登場します。「役に立たない猫の手ですら借りたい」という庶民特有の諧謔(かいぎゃく)精神から生まれた表現が、時代を超えて定着したのがこの言葉の語源とされています。