「朝4時に並んでも買えるかどうか分からない」。現地を訪れた旅行者が口を揃えて語るこの現象は、決してオーバーな表現ではない。流通量が極端に少ない最大の理由は、その栽培可能地域の狭さと、極めて繊細な育成条件にある。
この品種は、旧ソ連原産のぶどう品種「ヴェレス」と日本の「パイオニア」の交配によって生まれた歴史を持つ。しかし、病害虫に弱く、果皮が薄いために裂果(果実が割れる現象)を起こしやすいという、農家泣かせの気難しさがある。そのため、栽培を成功させるには熟練の技術と手間暇がかかり、秩父市および横瀬町などの指定された限られた農園でしか生産が認められていない。
「大量生産が原理的に不可能なのです。1粒1粒に注ぐエネルギーが他のぶどうとはまるで違う」。あるベテラン栽培農家は、汗をぬぐいながらそう明かしてくれた。年間生産量が限定的であるがゆえに、一般的な卸売市場のルートにはほとんど乗らず、ほぼすべてが農園直売や限定的な注文で消化されてしまうのだ。