日本人の仏教知識で最も頻繁に混同されるのが、「南無阿弥陀仏」と「南無妙法蓮華経(なむみょうほうれんげきょう)」の違いです。街中のお寺や看板で見かけるこの二つのフレーズには、明確な信仰対象の相違が存在します。
前述の通り、「南無阿弥陀仏」は阿弥陀如来という「仏」への帰依を誓う念仏です。それに対して「南無妙法蓮華経」は、鎌倉時代の日蓮(1222〜1282年)が開いた日蓮宗系において唱えられる「お題目(だいもく)」であり、釈迦の説いた最高の経典とされる『妙法蓮華経(法華経)』という「経典のタイトル=教え」に帰依することを意味しています。つまり、特定の仏(阿弥陀如来)に頼るのか、釈迦の究極の教法(法華経)を身に宿すのかという対象の違いが、南無妙法蓮華経との違いの核心です。
また、実際の法事や通夜の場において読まれる葬儀のお経の種類も、宗派によって大きく異なります。
- 浄土宗・浄土真宗:阿弥陀仏の立てた誓いと極楽浄土の荘厳さを説いた『仏説阿弥陀経』『無量寿経』『観無量寿経』(浄土三部経)や、親鸞の『正信偈』を僧侶が読誦します。
- 禅宗(臨済宗・曹洞宗):大乗仏教の空(くう)の思想を端的にまとめた『般若心経』や『修証義』『坐禅和讃』が読まれます。
- 真言宗:弘法大師空海が開いた密教宗派であり、『般若心経』に加えて『理趣経』や真言(マントラ)が重層的に唱えられます。
お葬式の場で耳にする読経は、故人の霊を鎮めるだけでなく、集まった遺族に対して「生老病死の苦しみからどのように解き放たれるか」という釈迦の教えを再確認させる役割を担っています。その儀礼の中で、参列者自らが口にして仏と直結する合言葉こそが「南無阿弥陀仏」なのです。