時代劇の歴史において、殺陣の上手い俳優は数多く存在しますが、同業者や現場の殺陣師たちが「別格」「神の領域」と恐れ敬った存在こそが近衛十四郎です。彼の立ち回りは、単に型が綺麗な舞踏的なチャンバラとは一線を画し、「本当に人を斬っているのではないか」と錯覚させるほどの重厚感とスピードを兼ね備えていました。
最大の特長は、目にも留まらぬ居合(抜刀術)の凄まじい速さと正確さです。刀を鞘から抜き放ち、敵を一閃して血振りをし、流れるように鞘へ納める一連の動作に一切の淀みがありません。通常の役者が居合を演じる際は、怪我を防ぐためや納刀をスムーズにするために手元を見たり動きを緩めたりするものですが、近衛は敵を見据えたままノールックで一瞬のうちに柄を収めました。
また、彼の太刀筋は「刃筋(はすじ)が狂わない」ことでも知られています。どんなに激しい立ち回りの中でも刀身の角度がブレず、相手の寸止め位置でピタリと止まる超人的なコントロール能力を誇りました。この卓越した技量があったからこそ、相手役の斬られ役(大部屋俳優たち)も恐怖を感じることなく、極限まで踏み込んだ大迫力の攻防を演じることができたのです。