ネット上の掲示板やSNSで鷲尾愛宕神社を検索すると、必ず浮上するのが「禁酒・禁煙の神様」という独特の異名です。「参拝した翌日からタバコが吸えなくなった」「酒を断つと誓ったら昇進した」という体験談が語られる一方で、「破ると神罰が当たるのではないか」という都市伝説めいた噂も囁かれています。
社務所や奉納された絵馬の現場検証を行うと、この信仰の実態が鮮明に浮かび上がります。絵馬掛けには「禁煙成就」「禁酒貫徹」「ギャンブル断ち」といった文字が所狭しと並び、中には煙草の箱やライターを直接括り付けた絵馬も見受けられます。
このご利益のルーツは、愛宕権現の「断ち物(たちもの)」信仰にあります。火の神を祀る愛宕神社では、自らの欲求や悪習を一定期間断ち切ることで願いを成就させる祈願様式が古くから伝承されてきました。江戸時代には穀物や塩を断つ願掛けが一般的でしたが、近代以降、嗜好品の代表格である酒や煙草を断ち切る対象へと自然に変遷した結果です。
「神罰が下る」という噂の真相について、神社側の見解や神道研究の知見に照らし合わせると、神が罰を下すというよりも「自らが神前で立てた固い誓いを裏切ることへの自己嫌悪や心理的動揺」が拡大解釈されたものと言えます。悪縁を断ち切り、新たな良縁や生活習慣を引き寄せるための「自己規律の場」として機能しているのが実情です。