公式が明確に否定したにもかかわらず、なぜ2020年代を超えてもこの噂は語り継がれているのでしょうか。そこには、インターネット掲示板やSNSが内包する構造的な拡散力と、人間の心理的メカニズムが関係しています。
この都市伝説が本格的に拡大したのは、2000年代初頭の「2ちゃんねる(現5ch)」オカルト板やまとめサイトの勃興期でした。「誰もが知る国民的アニメに隠された戦慄の真実」というパッケージは、ネット黎明期のテキストサイトやバイラルメディアにとって格好のアクセス稼ぎコンテンツとなったのです。「メイのサンダルと池のシーン」「お母さんの病室とトウモロコシ」といった象徴的な描写に、真偽不明のテキストを付与することで、あたかも精緻な伏線回収であるかのような物語が再構築されていきました。
しかし、この噂の消費には重大な倫理的リスクが潜んでいます。モチーフとされた「狭山事件」は、現在も東京高等裁判所において第3次再審請求の審理が続いている、日本の司法史における極めて重大な人権・冤罪論争事件です。被差別部落出身の石川一雄氏が無実を訴え続け、60年以上にわたり支援者や法曹界が事実解明に挑んできた現実の痛切な事件を、ポップカルチャーの「不気味な裏設定」として軽薄に消費することは、事件の犠牲者や関係者、冤罪被害を訴える当事者に対する二次加害にほかなりません。ネット掲示板やSNSでは近年、「本物の冤罪事件を面白半分のオカルトのネタにするのは不見識だ」という厳しい批判の声も高まっています。