日本社会における過度な清潔志向やスメルハラスメント(スメハラ)への過剰な恐怖心は、時に「オーラルケア依存」とも呼ぶべき心理的トラップを生み出している。特に20代〜40代のビジネスパーソンの間で、「他人に息が臭いと思われているのではないか」という不安から、1日に5回も6回も舌をブラッシングしてしまうケースが散見される。
心理学・心療歯科の領域では、客観的な口臭測定器でガスが検出されないにもかかわらず、本人が強い悪臭を確信して自傷的に粘膜を攻撃してしまう「自己臭恐怖症(口臭症)」が古くから研究されている。鏡の前で舌苔を探し続け、少しでも白さが見えると強い力で排除しようとする行為は、まさにこの心理的バイアスが引き金となっている。
生物学的な事実として、人間の舌は陶器のように平滑でもなければ、均一なピンク色単色でもない。前述のように糸状乳頭の立体構造が存在する以上、健康な状態であっても薄い白さや淡黄白色を呈するのが自然の摂理である。「完全に真っ白をゼロにする」という不可能な完璧主義を捨てない限り、粘膜剥離と悪臭再生産の泥沼から抜け出すことはできない。