ネット上の掲示板や週刊誌の論調で頻繁に見られるのが、「朝ドラの視聴率が15%を割った、打ち切り危機か」といったセンセーショナルな言説です。しかし、放送ビジネスとメディア社会学の観点から見れば、これは典型的なミスリーディングです。
ビデオリサーチの調査手法は、昭和の時代から大きく進化しています。現在重要視されているのは、世帯視聴率ではなく「個人全体視聴率」および「コア視聴率(男女13〜49歳)」です。朝8時という時間帯において、現役世代や学生の多くはすでに家を出て移動中か、始業前の準備に追われています。この時間帯に在宅している層の絶対数が減少している以上、世帯視聴率が構造的に下降するのは当然の物理現象です。
また、歴代朝ドラヒロイン一覧を俯瞰すると、キャスティング戦略にも明確な方針転換が見られます。かつての朝ドラは、数千人規模の一般公募オーディションから無名の新人を抜擢し、「ドラマと共にヒロインが成長していく姿」を視聴者が温かく見守るのが通例でした。山口智子(純ちゃんの応援歌)、鈴木京香(君の名は)、松嶋菜々子(ひまわり)、竹内結子(あすか)らがその好例です。
しかし近年の朝ドラは、失敗が許されない公共放送の看板枠として、すでに民放ドラマや映画で主演実績を持つトップクラスの実力派(有村架純、安藤サクラ、杉咲花、伊藤沙莉、今田美桜、髙石あかりなど)を直接キャスティング、あるいは一本釣りに近い選考で起用するケースが主流となりました。新人を育てる場から、「日本最高峰の演技力と知名度を持つ俳優陣が、半年間かけて社会性のある重厚な物語を紡ぐプレミアム枠」へと変貌を遂げたのです。
したがって、目先の世帯視聴率が13〜14%台に落ち込んだとしても、配信経由で若年層の受信契約維持に寄与し、SNS上で知的な議論を巻き起こしている限り、NHK内部におけるプロジェクトの評価が失墜することはありません。「数字の一桁化=失敗」という見方は、地上波一強時代の古い物差しに囚われた偏った見解と言えます。