血管の健康を左右する中枢として、医学研究者が最も注視しているのが血管内皮細胞の働きです。血管の最内層に敷き詰められたこの薄い細胞シートは、単なる血液の通り道ではなく、全身の循環動態を緻密にコントロールする巨大な内分泌器官としての性質を備えています。
血管内皮細胞の最も重要なミッションは、一酸化窒素(NO: Nitric Oxide)の産生です。適度な運動や入浴などによって血流が加速すると、血液と血管内壁との間に生じる摩擦応力(ずり応力)が刺激となり、内皮細胞内でNO合成酵素が活性化されます。生み出されたNOは血管壁の中膜にある平滑筋に瞬時に作用し、緊張をほぐして血管を柔軟に拡張させます。
NOが十分に分泌されている血管は弾力性に富み、血圧の急激な上昇を吸収して動脈硬化を防ぎます。ところが、運動不足や喫煙、過剰な活性酸素によって内皮細胞がダメージを受けると、NOの産生能力が劇的に低下します。血管はしなやかさを失って硬直化し、末梢への血流分配能力も阻害されるという悪循環に陥るのです。血管年齢の若返りを科学的に紐解く鍵は、まさにこの「内皮細胞を刺激してNOをコンスタントに放出させる力」の再生にあります。