「時間が経てば水にふやけて自然に流れるのではないか」という楽観的な判断は極めて危険です。バリウム便を便器内に放置した場合、水面下に沈んでいる部分であっても時間の経過とともに成分が緊密に再結晶化し、まるで速乾セメントが硬化するように石膏状の塊へ変質します。
排泄から数時間が経過して水分蒸発や成分凝集が進むと、陶器の釉薬(ゆうやく)表面と分子レベルで固着します。この状態に達すると、通常の水流はおろか、便器の奥に溜まるわずかな水流の渦すらその塊を迂回して流れるようになり、完全に便器の一部と化してしまいます。
さらに恐ろしい事態は、中途半端な水流によってバリウム便が便器を通過し、床下の排水トラップや横引き排水管の中で固着した場合です。配管の曲がり角(エルボ部分)やパイプの継ぎ目に高比重のバリウムが堆積すると、その後に流されるトイレットペーパーや日常の排泄物をダムのように堰き止めます。結果としてトイレ全体の排水不能、汚水逆流事故、階下漏水といった深刻なインシデントへと直結し、修繕費用も跳ね上がります。