制度の条文だけでは見えてこないのが、治療当事者が直面する書類作成の過酷さと税務知識のギャップです。生殖医療クリニックの現場や体験者の証言から、リアルな現状が浮き彫りになっています。
社会保険労務士としての知見を持ちながら、自らも不妊治療の当事者として治療を経験した専門家は、手記のなかで次のような率直な実感を記しています。
「1年を通して振り返ると、通院ごとの細かな検査費や薬代が積み重なり、想像以上に費用がかさんでいると感じることが多くありました。体力的にも精神的にも追い詰められる中で、家計の支えとなったのは間違いなく医療費控除でした。しかし、夫名義で申告するための領収書の仕分けや助成金申請との突合作業は、心身に大きな負荷を与えたのも事実です」(当事者社労士の手記より)
ネット上のコミュニティや知恵袋、SNSを分析すると、自費診療不妊治療確定申告ネットの反応には根深い混乱が見て取れます。「保険適用回数の上限(43歳未満・通算6回まで等)を超えて全額自費になった採卵や移植は控除の対象になるのか」「自費診療は贅沢品扱いされて税務署から弾かれるのではないか」といった不安の声が数多く投稿されています。
国税庁の見解は明確です。所得税法施行令第207条に基づき、「医師又は歯科医師による診療又は治療の対価」であれば、健康保険の適用・不適用を問わず医療費控除の対象となります。自費診療となった体外受精技術料、顕微授精料、さらには精子凍結・胚凍結の更新管理費用(※治療の一環として医師の指示下で行われるもの)も問題なく対象に含まれます。
さらに注目すべきは、体外受精先進医療費控除対象範囲の扱いです。現在、保険診療と併用が認められているタイムラプス撮像法、子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ)、SEET法、子宮内膜受容能検査(ERA)などの先進医療技術料は、全額自己負担となるものの、確定申告においては全額が医療費控除の計算対象として認められています。高額な先進医療を組み合わせている患者ほど、控除の恩恵を最大限に引き出すことが求められます。