宇多田ヒカルの代表曲解説を語る上で欠かせないのが、アニメーション制作スタジオ「カラー」を率いる庵野秀明総監督との運命的な交差です。当時、カルチャー誌のインタビュー等でかねてより熱烈な『エヴァンゲリオン』ファンであることを公言していた宇多田ヒカルに対し、新劇場版の立ち上げに際して庵野監督自らが主題歌制作を熱望したことがすべての始まりでした。
当時の音楽メディアの報道や関係者の証言によると、宇多田ヒカルは制作陣から提供された『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』のプロットや初期コンテを深く読み込み、一切の妥協を排してデスクに向き合いました。彼女が選んだアプローチは、単に劇中の用語やロボットバトルの壮大さをなぞるのではなく、物語の核である「他者との距離感に怯える14歳の少年・碇シンジの内面」に完全にチューニングを合わせることでした。
「タイアップ曲を作る際、私はその作品の主人公の視点、あるいは主人公を一番近くで見つめる者の視点になりきる」という彼女の手記や過去のインタビュー発言が示す通り、『Beautiful World』の歌詞制作秘話には、自身のパーソナルな心象風景とシンジの孤独を二重写しにするという、極めて親密で痛切なクリエイティブプロセスが存在していました。こうして誕生した楽曲は、2007年9月の発売以降、オリコンチャートの上位を席巻し、デジタル配信を含めて瞬く間にミリオンセラーを記録することになります。