熊に襲われた人の顔や傷跡、その後の人生を追うと、共通して浮かび上がるのは「自然との距離感の喪失」という構造的な問題だ。日本社会では戦後、山林の手入れが行き届かなくなり、里山と奥山の境界があいまいになった。その結果、クマの生活圏と人間の生活圏が重なり合い、お互いが「侵入者」として遭遇する事態が増えている。
環境社会学の専門家は、この現状を「人と野生動物の境界喪失による衝突」と分析する。心理学的には、被害者に深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)が残るケースが多く、身体の傷以上に長く苦しみ続ける人が少なくない。秋田県の精神保健福祉センターが実施した聞き取り調査では、熊による襲撃体験者の約7割が、事故から1年以上経っても山に入ることができず、遠くで動物の鳴き声を聞くだけで動悸や悪夢に悩まされていると回答している。
では、熊に襲われるリスクを最小化するために、誰が何をすべきなのか。おすすめできる人と避けるべき人の判断基準を明確にする。
山に入るべきでない人:単独行動をする人、熊の生態を知らない人、クマ撃退スプレーを持たない人、耳にイヤホンをして音に無自覚な人。この条件に一つでも該当するなら、2026年時点でクマの出没が続く東北や北海道の山に入るのは率直に危険だ。
リスクを管理できる人:複数人で行動し、事前に自治体の出没情報を確認。スプレーを腰のホルスターに装着し、常に周囲の気配を感じながら歩ける人。声を出しながら歩き、見通しの悪い藪を迂回する判断力がある人。