吉原商店街の居酒屋を語る上で欠かせないのが、駿河湾の恵みをダイレクトに味わえる海鮮居酒屋と、煙立ち込めるやきとりの名店です。観光客向けの派手な看板を掲げずとも、地元富士市民の胃袋を長年掴んで離さない理由が厨房の仕事に宿っています。
鮮魚を求めるなら、田子の浦港から水揚げされたばかりの魚介を扱う割烹仕込みの居酒屋に軍配が上がります。3月下旬から解禁される田子の浦の「生しらす」は、一艘曳き(いっそうびき)網漁により傷がつかず、プリプリとした透明感と甘みが別格です。常連客が必ず頼む刺身盛り合わせには、近海で獲れた金目鯛やアジ、脂の乗ったマグロが惜しげもなく並びます。こうした店では、富士山麓の伏流水で醸造された辛口の地酒「高砂(富士高砂酒造)」や「富士錦」が常備され、杯を重ねるごとに至福のひとときが訪れます。
一方、香ばしい匂いに誘われて暖簾をくぐりたくなるのが、吉原本町駅周辺に根を張るやきとりの名店です。炭火の強火で外側をパリッと焼き上げ、中はふっくらと肉汁を閉じ込めたねぎまやレバーは、1串100円台半ばから提供される驚愕のコストパフォーマンスを誇ります。長年継ぎ足された秘伝の甘辛ダレに絡む串焼きと、キンキンに冷えた生ビールや静岡割り(緑茶割り)の相性は言わずもがなです。
さらに近年、路地裏の古民家や長屋を改装した隠れ家居酒屋が熱い視線を集めています。カウンター数席と奥の小上がりだけという小ぢんまりした空間で、地元無農薬野菜の天ぷらや、富士宮産の白糸ポークを用いた創作肉料理を提供するスタイルが若い世代や大人の呑兵衛に深く刺さっています。隠れ家ゆえに看板が控えめな店舗も多く、見つけ出して扉を開けた瞬間の高揚感は吉原ならではの体験といえます。